碧いガラス球 Ⅰ

未炎「ハイ、キィシェル!ごはんだよ〜」


目の前に、生きた綺麗な瑠璃色の虫が置かれた。


未炎「これね、ルリセンチコガネっていうんだよ!
   キィシェルには、群青色になってほしいな。
   青が好きだし絶対似合うと思うよ!」


そう呟きながら彼女は青い虫をまじまじと見つめた。
エサを食べても、そうそうすぐ大きくなるわけではない。
まだ体は普通のリヴリーよりは小さいし、
色も茶色。
飼い主は、最初はパソコンを使ったりしてリヴリーの育て方を
一生懸命検索していた。
といっても、まだ幼いキィシェルには
ただ何かをカタカタ叩いて遊んでいるようにしか
みえなかったが。


未炎「ええと、色のシュミレーターは・・・」


などという独り言の意味も、
キィシェルにはまだ理解できない。



そう、彼女はまだ本当に『生まれたて』なのだ。
初めて見るフラスコの外の世界に、きっと戸惑いも
あるに違いない。






ある日、キィシェルの飼い主はエサを補給するべく
彼女をやどかり亭に連れて行った。
もちろん、キィシェルはそこで初めて
他のリヴリーとも出会うことになる。


未炎「青くなる虫と・・・あれ、ウスバカゲロウって
   食べるとどうなるんだろ?」


飼い主はじっと食べ物の説明表を見つめている。
彼女自身もはじめてリヴリーを飼うものだから、
覚えておかないといけないことは山ほどある。


キィシェルは飼い主のそばから少しはなれ、
あたりを飛び回ってみた。
トビネ、というリヴリーははねて移動することが出来る。
まだ殆ど感覚もつかめてないのに、いきなり跳ぶことが出来た
自分を少し気味悪くも思っていた。
そして、周りには見たことも無いリヴリーが沢山いた。
同じ種類のトビネにはあまり関心は無かったが、
自分よりはるかに大きく、容姿も違う生命体には
積極的に近寄っていった。
ジャンプすればそこそこのリヴリー
見下ろすことが出来るが、
何をしたって顔すら見ることが出来ないくらいの
大きなリヴリーも居た。


すると突然、自分の口が勝手に動いた。


キィシェル「すごいですね!(・・・!?)」


何も思っていないのに、突如口走った言葉に
キィシェルは驚きを隠せなかった。
しかし、その一瞬前に、頭の中に飼い主が私に
テレパシーのようなもので「お話したい」という
ことを伝えたという記憶があった。


リヴリーは、飼い主と心をつなげ、
飼い主が思ったことをほかの飼い主に
伝えることが出来る。
こうして、はなれていても他の飼い主と
会話することが出来るのだ。
ちなみに、リヴリー同士の会話は
また別のものである。
キィシェルは、その記憶を思い出し、
リヴリーが通信機能を持っていることを悟った。



未炎が発言したそのすぐ後に
近くに居たウサギのような形のリヴリー


ウサギ「ありがとう^^」


と言った。
そのリヴリーはかなりレベルが高く、
いろいろな技を繰り出していたため
未炎がそれに感心し褒め言葉を送ったのだった。
キィシェルも、それを見た時はすごい技だ、
自分も使えるようになりたい!と思っていた。
彼女もこっそりウサギに話した。


キィシェル『すばらしい技ですね!』


ウサギ『ほ、本当・・・?うれしいな!』


素直なリヴリーでよかったな、と思った。
なぜ生まれたてなのに両方の言葉が話せるのか
少し疑問に思ったが、そのあとすぐに
その意味が分かった。


飼い主同士で会話できるのは、
大体の飼い主はパソコンを持ち歩いていた。


キィシェル(あ、あのカタカタ楽しそうなやつ!)


他の飼い主も大体は パソコンか、あるいは、
なんだかよく分からないかじられたリンゴが裏に描かれた
平べったいものを持ち歩いて、それを仲介役として
リヴリーに意思を伝えている。


キィシェルがそれに感心していた、その時。


???「おっと、あぶねぇんだよ!!!」


キィシェル『ひゃっ!!』


何かとぶつかった。
いや、ぶつかったと言うより
故意に「ぶつかられた」と言った方が正しいかもしれない。
びっくりして振り向くと、
後ろにはかわいい外見の、しかし
なんだか嫌な雰囲気の漂うバレンタイン限定リヴリー
黄色のピキが立っていた。


今あぶねぇ!と発言したのは飼い主の方だが、
リヴリーの方も愛嬌のなさそうな感じだった。


ピキ『俺のふさふさの毛並みを汚すなよksが・・・!
   ただじゃおかねぇぞ!』