碧いガラス球 プロローグ

―流れる水の音で、私は目が覚めた―



暗闇の中  何も  見えない 
分かるのは  浮かんでいく泡と  暖かい  
水の  感触だけ



突然  目の前に  青い世界が 視野が 碧く 染まる
目を開けたら  耐えられない  強い  光  碧くて
綺麗な  水の  世界



ワタシハ  ダレ・・・?





コンコンと、誰かがフラスコを叩く音がする。




ミュラー「気分は、どうだね?」



白衣を来た白いひげの生えたおじいさんが来た。
気持ちいいですと答えたいけど、
声は出ない。すべて水に溶けたような
か弱い叫びに変わってしまう。



ミュラー「フラスコの中は飽きていると思ったよ。ほかの
     連中はもう騒いでるというのに・・・」


だんだん目が慣れてくると、周りに色とりどりの液体が
入ったガラス球のようなフラスコが、転々と
空から吊り下げられている。



ミュラー「もうすぐ第2実験室に着くから、もう少しの辛抱だ」



自分の入ったフラスコがたまにガタンガタンと
ゆれるので、どうやらトラックのような大きな乗り物に
乗せられているようだ。
辺りを見回せば、不思議な形の動物が
液体の入ったフラスコの中で動いている。
また、水に鏡のように映った自分の姿も、
とてもへんてこに見える。



とがった鼻に、丸い耳。
ふさふさの長いしっぽ。
茶色と薄い肌色の体。
まるでトビネズミのような感じ・・・
ほかにも何匹か、自分とまったく同じ姿の生き物が
フラスコの中で泳いでいる。
自分の体には、細いストローの様な管が繋がっている。
体に差し込んであるようで、痛くははないが
ゆれるたびにぐらぐら動くので、気持ち悪い。







何時間か経ってまたさっきの白衣の人が現れた。


ミュラー「さて、着いたぞ 体からコードを抜くから、
   少しじっとしていてくれ」



彼の助手と思われる人がそっと自分を
水の中から抱き上げる。
いや、抱き上げるというより摘み上げたというのだろうか。
人間の手はとても大きい。
それにたいして自分は、人間の親指より小さいようだ。



ミュラー「今、アイランドに移してやるからな おい、
     ギュニアモデルを用意してくれ」


まもなく、小さな、しかし自分にとっては大きい
草が生えた島が出された。
ここに自分はしばらく住むようだ。


ミュラー「急いで木箱につめなさい 早く飼い主を見つけて」


飼い主?
つまり、自分は誰かのペットなのか?
生まれたばかりで何も分からないはずなのに、
少し抵抗があった。
自分のご主人は、自分を大切にしてくれるだろうか。



そんなことを考えているうちに、
私とアイランドと呼ばれた小さな島は白い木箱に
入れられてしまった。





それからまたしばらく経つと・・・
外から声が聞こえた。


「リ、リヴリーを飼うため、申し込みに来ました!未炎と
 申します!ト、トビネを飼いたいです!」


「はい、種類はトビネですね。今、お持ちしますから・・・
 リヴリーの名前は何にしますか?」


「えっと、えっと、じゃあ・・・キィ・・・シ・・・
 キィシェルです!コレに決めます!」


「ほかにこの飼い主名と名前はいません・・・ね・・・
 それでは、しばらくお待ちください」


ガタン と自分が入った木箱が揺れた。
人間が持ち上げて、移動しているようだ。
すごくゆれるので、酔いそう。



そして突然。
目の前が真っ白になった。
箱が開封されて、光が入ってきたのだ。
見上げると・・・目をまん丸にして
自分を見ている女の子がいた。




「君がトビネのキィシェル・・・ずいぶん小さいね」


そして、自分に向かって手を伸ばした。


「私、未炎。これからよろしくね!!」